エンターテイメントという些細な味付け


2018/12/25

保健管理センター長の一言【エンターテイメントという些細な味付け】

 1974年から15年かけてフィンランド保険局が健康に関する前方視的調査を実施しました。その内容は、40~45歳の上級管理職1,200人を健康管理をしっかりするグループ(600人)(介入群)と何もしないグループ(600人)(非介入群)に分けました。介入群には4カ月ごとに健康診断が行われ、血圧と血清脂質値が目標値より高い人には降圧剤やスタチン製剤(血中コレステロール値を低下させる薬剤)が投与されました。さらに食事や運動のアドバイス、喫煙、アルコール、砂糖と塩分の制限など、実に丁寧な指導が行われました。非介入群には、調査の目的については一切知らせず、定期的に健康調査票に回答を書き込んでもらいました。このような指導を5年やって、10年間の観察期間としてどちらのグループも健康管理は自己責任に任せて、15年後に蓋を開けてみました。実験が始まった1974年から1989年の15年間の総死亡者数は、介入群で75人、非介入群では38人(有意差あり)でした。内訳は心疾患死、34:14(有意差あり)、その他の血管死、2:4(有意差なし)、がん死、21:13(有意差あり)、外因死(事故、自殺、他殺)、13:1(有意差あり)、その他の死因、5:6(有意差なし)でありました。さらに、介入群は自殺者が何人かいましたが、非介入群はゼロでした。
 この調査での指導法に関しての問題点は、安易に降圧剤を投与したこと(安易な降圧剤投与は愚の骨頂です)、コレステロールの数値を徹底的に管理したこと(当時はコレステロールは低いほどいいという観念があった)などが考えられます。しかしながら、一番の問題点はガチガチの健康管理を押しつけられたために、免疫の働きが弱ったのではないかと思われます。Natural Killer(NK)細胞という免疫の最前線で活動するリンパ球があります。NK細胞は田舎の交番のお巡りさんのような細胞で、体の中をパトロールして、パトロール中に悪さをするウイルスや細菌、さらにがん細胞を見つけるとやっつけてくれます。NK細胞の活性が低下すると、様々な病気に罹患しやすくなります。また、NK細胞の働きが鈍くなるとうつ病にもなりやすくなります。おそらく、ストイックな生活がNK細胞の活性を低下させたために介入群での結果に繋がったと推察されます。実際、笑う(愛想笑いでもいい)とNK細胞の活性が高まるります。笑うことは人間の特権です。健康を維持するための治療上の過保護と生体の他律的な管理は、健康を守ることにはならず、依存、免疫不全、抵抗力の低下、つまり不健全な状態をもたらします。健康維持には、自ら抵抗力をつけ、免疫機能を高める工夫が肝要です。健康管理には、あまり神経質にならない方が、元気で長生きできる?健康を他人に管理されたため、「~しなければならない」というプレッシャーがストレスを引き起こし免疫系に影響を与えた?自分のやりたいことをやっているストレスフリーの生活がいいのではないか?と思われます。
 自分の好きなことや楽しいことに出会うとわくわくする。小学校の遠足の前日におやつを買いに行くときのような気持ち。大好きなアーティストのコンサートに出かける前の気分。こんなちょっとハイテンションな気持ちを日常的に持ち続けることができれば、心身ともに健康を保つことができるのではないでしょうか。日常の生活にエンターテイメントという些細な味付けをして楽しい・幸せだと感じることが大切だとこのごろ感じています。
 私はスポーツ観戦が大好きです。春から秋にかけてはプロ野球、秋から春にかけてはBリーグ(バスケットボール)をDAZNで観戦して楽しんでいます。応援するチームの勝敗に一喜一憂しています。ここ3シーズンはプロ野球には行っていないですが、Bリーグの生の観戦には今シーズン2回行きました。アリーナでの観戦は行ってみないと分からないワクワクする独特な雰囲気を楽しむことができます。今年はルーブル美術館展、プーシキン美術館展、フェルメール展にも行きましたが、本物の芸術作品にとても感激しました。チケットをネットで購入して、コンビニで発券するときはワクワクします。iPhoneで日常の何気ない景色、人物像、食べ物などを撮り、もっと気に入った写真が撮れないかと工夫したり、夜、家でワインを美味く飲めるにはどうしたらいいか、今の季節はこのコーヒーが合うなとかなど、こんな些細なことにささやかな楽しみを感じて暮らしています。このような暮らしをしていると仕事するのも楽しくなり、能率も向上するような気がします。なんいでもいいから楽しんでするように心がける。こんな少しいい加減な暮らしがNK細胞の働きの鈍化を遅らせ、健康を保つことができるのではないかと思うようになりました。

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参考図書

奥村 康 (2009年)「「まじめ」は寿命を縮める「不良」長寿のすすめ」(宝島社新書)

写真1 柘榴坂。JR品川駅の高輪口を出たらすぐに見えます。「柘榴坂の仇討」の舞台です。

写真2 プーシキン美術館展で撮影したクロード・モネ作の「草上の昼食」。木にハートマークが描かれていますが、その意図は未だ不明です。

写真3 “悪魔の蔵”伝説ワイン「カッシェロ・デル・ディアブロ」。

写真4 フェルメール展で買った「ゴンチャロフ チョコレート」。

写真5 スターバックスのクリスマスブレンド。