「安易な薬物投与への疑問」


2018/6/7

  保健管理センター長の一言【安易な薬物投与への疑問】

 3年前の夏に日本ファンクショナルダイエット協会認定のケトジェニックダイエットアドバイザーの資格を得てから、食と健康の関連について真剣に取り組むようになりました。その一つの取り組みとして、本学の学生に協力してもらい食生活と月経困難症との関連について検討を行いました。その結果、月経困難症の程度とカルシウム及びビタミンA・K・C、葉酸摂取量との間に有意な負相関、さらに、緑黄色野菜及び海草類、豆類、果実類、種実類摂取量と有意な負相関を認めました。緑黄色野菜や海草類、豆類、果実類、種実類等に含まれる抗酸化ビタミンやフィトケミカルが子宮内膜における活性酸素産生を抑制し、その結果、子宮内膜からの子宮筋収縮作用を有するプロスタグランディン(prostaglandin; PG)の過剰分泌を抑えることにより、月経困難症の症状を緩和する可能性を指摘しました1)。
 その一方、エキストラバージンオリーブオイル(extra virgin olive oil; EVOO)は以前より、抗酸化作用、抗炎症作用を有するフェノール類を多く含んでいて、肥満、動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中、高血圧、アルツハイマー病、ガンなどの様々な生活習慣病予防・改善に有効であると報告されています2-4)。とくにEVOOの含有するフェノール類の一つであるオレオカンターレは炎症性酵素であるcyclooxygenase-2(COX-2)を抑制して、用量依存性に非ステロイド系消炎鎮痛剤作用を有していることが証明されています2)。さらにCOX-2はアラキドン酸から子宮収縮作用のあるPGを合成する酵素であり、月経困難症と子宮内膜におけるCOX-2発現との相関が指摘されています5,6)。
 このような現状を考慮して、野菜・EVOO摂取を基本とする食生活改善が月経困難症軽減に効果を現すか否かついて前方視的な調査を行い、月経困難症に悩む女子大生のQOL改善に如何に影響するかについて検討してみました。実際には、月経困難症の程度をスコア化して、ある一定のスコア以上を示した学生10人に緑黄色野菜・淡黄色野菜(キャベツ、トマト、ピーマン、カボチャ、ブロッコリー、ほうれん草、人参など)350g以上/day、EVOO(BOSCOエキストラバージンオリーブオイル(日清オイリオ))30ml(大さじ2杯)以上/dayを月経開始日から摂取しもらい、その後、その後3周期の月経時での月経困難症の程度を調査しました。その結果介入前に比較して、介入後1周期、2周期、3周期、どの周期でも月経困難症の程度が有意に低下しました。若年女性においては、食生活改善が鎮痛剤/低用量ピル投与とともに月経困難症対策の一つのオプションになり得るのではないかと考えています7)。
 なんでこんなことを思うようになったかといいますと、月経困難症に対して処方される鎮痛剤/低用量ピル投与に様々な副作用が報告されるようになったからです。以前から、悪心、嘔吐、食欲不振などの胃腸障害、腎・肝機能障害などが指摘されていましたが、最近、腸管透過性亢進が報告されるようになってきました。腸管透過性亢進は腸管壁浸漏症候群(leaky gut syndrome; LGS)と言われていて、慢性疲労症候群、リュウマチ、自己免疫疾患、炎症性腸疾患、セリアック病、パーキンソン病、多発性硬化症、喘息などの様々な疾患発症との関連が示されています8,9)。もちろん、子宮筋腫、子宮内膜症などの器質的疾患のため月経困難症を呈している方には投薬を含めたそれなりの対処は必要ですが、器質的疾患のない単なる月経困難症(機能的月経困難症)の若年女性に対して、安易な薬剤療法は慎重にすべきではないかとではないかと感じていて、まず、食生活改善を行ってはどうかと思っています。
 以前、抗生物質の乱用が耐性菌の出現、菌交代減少などの問題を提起し、最近では、抗生物質の安易な投与、長期投与を控える傾向にあります。特に小児科の先生方は抗生物質投与に対してはとても慎重になっておられます。かつて抗生物質販売がメインであった製薬メーカーのほとんどは、現在、糖尿病、高血圧、脂質代謝異常に対する薬剤販売に重きを置くようになっています。しかしながら、現在では、糖尿病に対してのインスリン分泌を促進する薬剤投与・インスリン投与、高血圧に対する安易な降圧剤療法などを疑問視する現象が認められてきています。糖尿病、高血圧に対しても安易な薬物療法ではなく、食生活改善がまず第一選択であると言っても過言ではないと思います。「薬に頼らず血圧を下げる方法」(加藤雅俊著)、「薬に頼らず血糖値を下げる方法」(水野雅登著)のような書籍も出版されています。最近では、糖尿病に対する高インスリン療法が糖尿病合併症の原因ではないかとも考えられています10)。薬は短期的に副作用がなかったら安全と解釈したらいけないと思います。10年、20年その薬が使い続けられ、投与症例が増えてから予想もしなかった副作用が報告されることはときにあります。ビタミン、抗生物質とともに医学界の20世紀大発明といわれた万能薬ステロイドホルモンも「非常に効果が高いが、副作用もまた強く、恐ろしい」と言われるようになって久しいです。
 本当にこれからは、食生活を中心とした生活習慣が万病を予防することを真剣に考える必要があると思っています。野菜、オリーブオイル、ココナッツオイル、良質の塩など自然からの最高の恵みを食生活に上手く組み入れることが重要ではないでしょうか?
 こんな思いも込めて、先日、サテライトキャンパス公開講座で「ココナッツオイルで生活習慣病を予防しましょう!」と題して講演しました。

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1) 秦 幸吉、野津朱里、川谷真由美、他. 女子大生における食生活と月経困難症との関連に関する検討. 臨床婦人科産科 70: 1079-1083, 2016
2) Parkinson L, Cicerale S. The health benefiting mechanisms of virgin olive oil phenolic compounds. Molecules 21: 1734; doi:10.3390/molecules21121734, 2016
3) Casamenti F, Stefani M. Olive polyphenols: new promising agents to combat aging-associated neurodegeneration. Expert Rev Neurother 17: 345-358, 2017
4) Fabiani R. Anti-cancer properties of olive oil secoiridoid phenols: a systematic review of in vivo studies. Food Funct 12: 4145-4159, 2016
5) Yang Lu, Cao Z, Yu B, et al. An in vivo mouse model of primary dysmenorrhea. Exp Anim 64: 295-303, 2015
6) Maia Jr H, Haddad C, Casoy J. Correlation between aromatase expression in the eutopic endometrium of symptomatic patients and the presence of endometriosis. Int J Womens Health 4: 61-65, 2012
7) 秦 幸吉. 食生活改善が月経困難症に及ぼす影響. 島根医学 37: 175-180, 2017
8)  Odenwald MA and Turner JR. Intestinal permeability defects: is it time to treat? Clin Gastroenterol Hepatol 11: 1075-1083, 2013
9) Fasano A. Zonulin and its regulation of intestinal barrier function: the biological door to inflammation, autoimmunity, and cancer. Physiol Rev 91: 151-175, 2011
10)  新井圭輔著 (2016年) 「糖尿病に勝ちたければ、インスリンに頼るのをやめなさい」(幻冬舎)