保健管理センター長のひとこと(2019年12月)

「睡蓮、柳の反映」、「聖プラクセディス」

2019/12/16

保健管理センター長の一言【「睡蓮、柳の反映」、「聖プラクセディス」】

 日本の有名な美術コレクションの一つに「松方コレクション」と言われているものがあります。Wikipediaから一部を引用しましたら「川崎造船所(川崎重工業の前身)社長を務めた実業家の松方幸次郎 (1865 - 1950) が1916年頃からの10年余に、イギリス、フランス、ドイツ等で収集した美術コレクションで、西洋近代の絵画・彫刻と日本の浮世絵が主体である。中世ヨーロッパの板絵やタペストリーも含む。西洋美術コレクション約3,000点については散逸・焼失した作品も多いが、このうち、フランス政府から返還された近代フランス絵画・彫刻等370点を基礎として、1959年に東京・上野に国立西洋美術館が開設された。特にモネの絵画、ロダンの彫刻がまとまって収集されている。」とありました。松方コレクションの中にクロード・モネ作「睡蓮、柳の反映」という数奇な運命を辿った幻の名画があります。1921年に松方がモネから直接譲り受けた、代表的な連作「睡蓮」の中の1点で、元は縦2メートル、横4.25メートルの大作で長い間所在不明でした。2016年にルーヴル美術館の一角で、画布の上半分が失われた状態で発見され、2017年11月に松方家から国立西洋美術館に寄贈されたとのことです。被害の程度が大きく1年間をかけて修復作業が行われ、国立西洋美術館で開催された「松方コレクション展」(2019年6月11日から9月23日まで)の注目作品の一つとして公開されました。
 「睡蓮、柳の反映」は「松方コレクション展」後に国立西洋美術館の所蔵作品となり常設展で展示されることになりました。10月に国立西洋美術館に行きました。常設展の順路の最後にモネの作品が8点展示されていて、一番最後に「睡蓮、柳の反映」がありました。国立西洋美術館の所蔵作品であるため写真も撮れました(写真1)。欠損部分は補われることなくそのままにされています。同館研究員・邊牟木尚美氏によると、「歴史的資料としての価値を重視して修復し、現状を維持しました。ですから欠失部分の補填は行っていません」とのようです。私もそれでいいと思います。この言葉がこの絵の持つすべての意味を集約していると思います。睡蓮が浮かぶ水面に池の上方で垂れ下がる柳が映っている様子が描かれている絵ですが何とも言えない感じがします。何も考えず黙ってじっと観るだけでとてもいい気分になりました。この日は「ハプスブルグ展」が始まってすぐでしたので、常設展は空いていて「睡蓮、柳の反映」の前にもほとんど人がいなく、ゆっくり鑑賞できてよかったです。
 もう一点、私が国立西洋美術館で観たかった絵があります。フェルメール唯一の模写である「聖プラクセディス」(写真2. サライ2018年11月号に掲載)です。ヨハネス・フェルメール作品は37点あるとされていますが、そのうち2点は未だ真偽のほどが定かではないです。「聖プラクセディス」はその2点のうちの1点です。ただこの絵は2000年に大阪で開催された「フェルメールとその時代」展ではフェルメール作品として展示されていたようです。現在、国立西洋美術館には「ヨハネス・フェルメールに帰属《聖プラクセディス》(寄託作品)」として展示されています(写真撮影はNGです)。この作品を含めてフェルメールは3点の宗教画を描いています。実際に観たら、人物が纏っている衣服の襞の深さ・影の程度が他の2点そしてその他のフェルメール作品と同様のように感じられました。さらに、この絵に使われている赤色が他のフェルメール作品の赤色と比べて不自然に感じられませんでした。真贋論争はどうであれ、フェルメール作品が日本で常設展として観られるのはとても素晴らしいと思います。私は近い将来、「ヨハネス・フェルメールに帰属」の「帰属」が消えるのではないかと思っています。そうなれば、「聖プラクセディス」は間違いなく日本では観られなくなるはずです。
 一つ一つの芸術作品に対する想いは人それぞれです。「睡蓮、柳の反映」、「聖プラクセディス」への私の想いを書かせていただきました。機会があれば、ご覧いただきたいとても素晴らしい名画だと思います。現在、上野の森美術館で「ゴッホ展」が開催されています(2019年10月11日~2020年1月13日)。「サン=レミの療養院の庭」(写真3の一番右下)という作品が展示されていますが、新緑の色がとても綺麗で力強く描かれている魅せられた作品でした。


写真1

↑ 写真1

写真2

↑ 写真2

写真3

↑ 写真3

保健管理センター長のひとこと(2019年)

前月2019/12次月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930311234