森のイスキア


2020/2/26

保健管理センター長の一言【森のイスキア】

 「あの人に会いたい」という番組をご存じでしょうか? “日本を支えた各界の有識者を毎回1名ずつ取り上げ、その人物の功績や存命時の人となりや活動風景などを女性アナウンサーのナレーションと、NHKが保存している映像ライブラリーの中から発掘したその人物が出演したインタビューやドキュメントの映像により、紹介していく番組”(Wikipediaより)です。以前(正確には2017年6月3日)、佐藤初女(はつめ)さん(2016年2月1日に94歳でご逝去)がこの番組で紹介されました。
 初女さんはカトリック教会の活動に加わり、自宅を改装して「弘前イスキア」という場にして、心が疲れ折れてしまい、生きる気力を失われた方々を支援するようになりました。その後、その活動は展開され岩木山山麓に「森のイスキア」と称する悩みや問題を抱え込んだ人たちを受け入れ、痛みを分かち合う癒しの場を主宰されるまでになりました。“「イスキア」の名の由来はイタリアの物語から。生きる気力を失ったひとりの青年が再生するきっかけとなった自然豊かなナポリの島の名にちなんでつけられた。どうにもならないほどの重荷を感じたとき、そこへ行けば自分を見つめ直し、再び現実へと立ち返ることができる力を得られる場所- 心のふるさとでありたい、という思いが込められている。”(「いのちをむすぶ」より)
 初女さんは「森のイスキア」を訪れた人に対して、その人を治してあげようとは思いませんでした。教えたり、諭したりではなく、どこまでも共感しながら、相手の気持ちを素直にうけとめました。「いろいろ言葉を尽くすより、黙って見守るほうがいいですね。急がないで、ゆっくり心を通わせることです。」若いころ結核を患い、55歳で夫が天に召され、病弱だったご自身が命がけで産んだ息子さんを80代で亡くされました。そんなご自身の体験からか初女さんは、「苦しみを乗り越えたときに、恵みがやってくる」と言っておられました。
 「人間関係で行き詰ったときや、進もうとしても進んでいけないときは、心を騒がせず、しばしそこにとどまって休みます。煮物と一緒ですよ。時間を置くと味がしんみりふくまれておいしくなりますでしょ。」「心は揺れていいんです。揺れるのは成長に必要な過程です。大揺れに揺れても芯が一本通っていれば折れることはありません。」人々の心に響く数々の言葉を残されました。そんな中、珠玉の言葉を見つけました。「ともに食すことは、ともに在ることです。どんなに言葉を尽くして話すよりも、深いところで通じ合えるんですね。」「大事にしていますよ。」とか「あなたを好きです。」と言葉にしなくても、同じものを一緒に食べるということでもうそこで繋がり、その人がおいしいって感じたときに心の扉が開いてみんなが話し出すと語っておられました。「食」という人間が生きるための根本の営みを通して何かを伝えたかったのではないでしょうか。
 そんなことを思いながら、先日、気の合う仲間と牡蛎を食べに行きました(写真1-4)。蒸し牡蛎、焼き牡蛎、カキフライ、とても美味しかったです。初女さんの言っておられる「ともに食すこと」の意味がすこしだけ理解できたような気がしました。

写真1写真2写真3写真4
↑ 写真1-4

参考文献
1) 佐藤初女 (2013年)「いのちの台所」(集英社文庫)
2) 佐藤初女 (2016年)「いのちをむすぶ」(集英社)