新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019, COVID-19)と糖質制限食


2020/4/6

 保健管理センター長の一言【新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019, COVID-19)と糖質制限食】

 COVID-19は国境を越えた感染の広がりに歯止めがかからず、世界保健機関(WHO)が世界的な大流行を意味する「パンデミック」を表明しました。日本でも都市圏の都府県では「オーバーシュート」、「ロックダウン」の危機に備える必要が出てきているような事態となり、先行きがかなり不透明な感じです。
 COVID-19をもたらすヒト感染性のある第7番目のコロナウイルスに対して特効薬もなければ、ワクチンもなく未知の部分が多いため、私たちの最大の不安要素となっています。
 COVID-19に対しては「マスクの着用」を含む「咳エチケット」と「手洗い」などの通常の感染症対策が基本です。さらに、クラスター発生の3条件である密閉空間、密集場所、密接場面の3密空間を避けることも大切です。そして免疫力を保つこともとても重要です。
 COVID-19では、小児では感染しても症状が出にくい。高齢者に重症患者が多い。死亡者は脳梗塞、糖尿病、高血圧などの基礎疾患がある。ということが分かっています。小児では酸化ストレスが低く、基礎疾患のある方は酸化ストレスが高いです。つまり活性酸素発生が亢進しているとウイルスに対する免疫力が低下して重篤になると考えられます1)。酸化ストレスが少ないことは、免疫力増強になりますので、日ごろから酸化ストレスに強い体作りが大切です。
 私たちが呼吸によって取り入れている酸素は、食べたものを燃やしてエネルギーを作り出したり、全身の細胞の新陳代謝に利用されるなどして、各器官の機能をスムーズに働かせるために使われます。これらの複雑な代謝の過程で、吸い込んだ酸素の約2~3パーセントが体を酸化させる「活性酸素」に変化しているといわれています。私たちの体は、活性酸素を細菌やウイルスなどを殺す武器としても利用しています。細菌などをやっつけるのは白血球という免疫細胞ですが、細菌を白血球の中に取り込んで殺すときに酸素を消費して活性酸素を作り出し、その強い毒性で破壊しています。適量であれば健康維持に役立ちますが、過剰に発生すると今度は正常な細胞を破壊してしまうという諸刃の剣となるのが活性酸素なのです。そのため、活性酸素の過剰発生はウイルス・細菌による感染症の易感染性(免疫機能の低下などによって抵抗力が弱まり、細菌やウイルスなどによる感染症に罹りやすくなっている状態)、高血圧、脂質異常症、肥満、糖尿病、がん、うつ、認知症などの生活習慣病の発症に深く関わっています。
 酸化ストレスマーカーを用いた研究により食後血糖値の変動が大きいほど酸化ストレスが増大することが報告されていて、血糖値変動増大に伴って発生した酸化ストレス、炎症が糖尿病および糖尿病合併症、動脈硬化、うつ病、認知症、癌などの生活習慣病の原因となることが指摘されています。さらに、食後高血糖によりもたらされるインスリンの過剰分泌はより一層酸化ストレスや炎症を引き起こします2-4)。また、血糖値変動の増大が生活習慣病発症の大きな要因であることは、久山町研究による疫学的研究からも明らかとなってきています5)。これら一連の負の連鎖は、糖質過剰摂取により齎されたものです。食事により血糖値上昇を抑えれば、食後の高血糖、それに引き続くインスリン分泌は低下して、血糖値変動を少なくさせることができます。したがって、血糖値変動を抑えることは活性酸素の発生が低下して、酸化ストレス減少に繋がる一つのオプションになり得ると考えられます。
 糖質制限食を実践すると血糖値の乱高下(低血糖も高血糖)もなく血糖変動幅(日内変動・日内変動ともに)が狭くなることが実証されています6,7)。したがって、余分な活性酸素の発生も少なくて、酸化ストレスが減少します。また、高インスリン血症による活性酸素の発生もごく少なくなり、こちらも、酸化ストレスの減少となります。そして、酸化ストレスが少ないことは、免疫力増強になります。新型コロナウイルス、インフルエンザなどのウイルス感染や細菌性肺炎などの細菌感染にも糖質を食べている人々に比べると、糖質制限食実践者はトータルの免疫力はかなり強くなっていると思います。さらに、糖質制限ではケトン体特にβヒドロキシ酪酸が高くなるので、抗酸化作用が増加して、抗菌抗ウイルス作用が亢進するとも考えられます。
 以上より、糖質制限食実践は今回のCOVID-19予防に有効ではないかと考えています。実際の私が行っている食事の原則は表に示す通りです。白米、パン、うどん、パスタ、ジャガイモの白物5品目、スナック、お菓子類全般、小麦粉を含む加工食品、市販の野菜ジュース、フルーツジュース、人工甘味料入りの飲料全般を摂らなければ十分ほぼ大丈夫です。まずすべきは、「何を食べるのか」ではなく、「何を食べないか」なのです。糖質摂取を控え、その減少したカロリーをタンパク質・脂質で補うのがポイントです。
 なお、今回の内容は一部、京都・財団法人高雄病院理事長 江部康二先生のコメントも入れています。

参考文献
1)  https://antioxidantres.jp/movie7/
2) Monnier L, Mas E, Ginet C, et al. Activation of oxidative stress by acute glucose fluctuations compared with sustained chronic hyperglycemia in patients with type 2 diabetes. JAMA 295: 1681-1687, 2006
3) Satoh N, Shimatsu A, Yamada K, et al. An alpha-glucosidase inhibitor, voglibose, reduces oxidative stress markers and soluble intercellular adhesion molecule 1 in obese type 2 diabetic patients. Metabolism 55: 786-793, 2006
4) 江部康二. 糖質制限食の有効性と可能性-糖尿病・動脈硬化・癌・肥満と糖質制限食-. 環境と健康 28: 11-19, 2015
5) 清原 裕. 変貌する日本人の生活習慣病の現状と課題:久山町研究. 臨床病理 63: 623-630, 2015
6) 秦 幸吉. 食事内容が血糖値変動に及ぼす影響-持続血糖モニター機器FreeStyle libreを用いた検討. 島根医学 38: 94-100, 2018
7) 秦 幸吉, 福島加菜美, 藤田小矢香. 低糖質食導入による血糖値変動への影響と減量効果の検討. 島根医学 39: 159-167, 2019
8) 江部康二監修: 増補新版 食品別糖質量ハンドブック. 羊泉社, 2016

  私が行っている食事の原則