保健管理センター長の一言 【EPA/AA比】


2016/4/8

 EPA/AA比とは血中のエイコサペンタエン酸(EPA)とアラキドン酸(AA)の比率のことです。EPAは魚類、海藻類、プランクトンなどに多く含まれる不飽和脂肪酸で、ヒトの体内では作られることはなく、食事からの摂取により、ヒトの体内でのEPAの量が決まります。AAは動物性脂肪、植物性に多く含まれるリノール酸からγ-リノレン酸などを経て、ヒトの体内で作られます1EPAは炎症抑制性のメディエーターを産生して炎症を抑制します。一方、AAは炎症促進性のメディエーターを産生して炎症を促進します。そのため、この両者の量的バランスを示すEPA/AA比は動脈硬化などの慢性炎症性疾患の指標として注目されています2-5)

 九州大学の久山町研究では、EPA/AA比が0.29未満の群は0.29以上の群に比べて有意に心血管疾患発症率が高いということが認められました。さらに、動脈硬化などの慢性炎症を有する群と有さない群に分けて解析したところ、慢性炎症を有する群では、EPA/AA比と心血管疾患発症リスクとの間には有意な負の関連が判明しました。したがって、動脈硬化などの慢性炎症を有する群ではEPA/AA比がリスク管理に重要で、心血管疾患発症のバイオマーカーになり得ると考えられました2)。また、EPA/AA比と動脈硬化促進に関与するインスリン抵抗性との関連に関する検討では、EPA/AA比が低下すればインスリン抵抗性が亢進していることが示されました3)。さらに、EPA/AA比と死亡率の検討では、EPA/AA比が0.25未満になると全死亡率が2倍に、心血管疾患による死亡率が3倍以上に上昇すると報告されいます4)。最近、EPA/AA比が低いと発がんのリスクが高くなることも判明していて、慢性炎症と発がんの関連も明らかになりつつあります。

 昨年12月に私は自分のEPA/AA比を測定してみました。結果は1.41でした。明らかな日本人の正常値というのはありませんが、久山町研究での久山町住民の中央値は0.4でした。また、心血管疾患発症リスクの高い患者ではまずは0.75以上に保つのが望ましいとされています5)EPAには、抗炎症効果があり、動脈硬化、心血管疾患、糖尿病、がんなどの根源である慢性炎症の抑制作用を有すると考えられます。

 私は以前、血中中性脂肪値が高かったため10年以上前から高純度EPA製剤を服用しています。現在、血中中性脂肪値は正常範囲になっていますので、そろそろ服用をやめようと思って、高松にいたときに私の主治医であった高松医療センター名誉院長の水重克文先生(循環器がご専門)に相談しました。水重先生は高純度EPA製剤をサプリメントとして飲み続けた方がいいと言われました。おそらく、私のEPA/AA比が1.41というのも高純度EPA製剤を服用しているからだと思います。さらに、上記のようなエビデンスも報告されているので、今後も、高純度EPA製剤を服用してゆくことにしています。そして年に1回くらいは自分の健康状態把握法の一つとしてEPA/AA比を測定することにします。

 EPA/AA比に関してもっと詳細にお知りになりたい方はこのサイトをご覧下さい。とても分かりやすいです。

http://www.epakarada.jp/epakarada/index.html#

201648日  秦 幸吉


参考文献

1)           平井愛山. EPA/AA. 動脈硬化予防 2015; 14: 13-21.

2)           Ninomiya T, et al. Association between ratio of serum eicosapentaenoic acid to arachidonic acid and risk of cardiovascular disease: the Hisayama Study. Atherosclerosis 2013; 231: 261-267.

3)           Yanagisawa N, et al. Polyunsaturated fatty acid levels of serum and red blood cells in apparently heathy Japanese subjects living in an urban area. J Athreroscler Thromb 2010; 17: 285-294.

4)           Ninomiya T, et al. Relationship between the ratio of serum eicosapentaenoic acid to arachidonic acid and risk of death: the Hisayama Study. American Heart Association Scientific Sessions 2011.

5)           Itakura H, et al. Relationships between plasma fatty acid composition and coronary artery disease. J Atheroscler Thromb 2011; 18: 99-107.