保健管理センター長のひとこと(2016年)

インフルエンザワクチン接種の推奨

2016/12/8

保健管理センター長のひとこと【インフルエンザワクチン接種の推奨】

 インフルエンザが流行し始める時期となりましたが、皆さま、インフルエンザワクチン接種はお済みでしょうか?我々医療従事者は、自分が感染するのを予防するため、また、インフルエンザに感染して感染源にならないために、インフルエンザワクチン接種を受けるのが当たり前となっています。私立の病院では、インフルエンザワクチン接種を受けずにインフルエンザに感染した際には、欠勤扱いになる病院も増えてきていて、それだけ、インフルエンザワクチン感染に対する危機管理は厳しくなってきています。
 日本では、インフルエンザのことをスペインかぜ、香港かぜ、ソ連かぜなどと言ったことがあり、かぜとインフルエンザが同じようなものだと思っている人も多いと思います。しかし、英語ではかぜのことを「common cold」、インフルエンザのことをinfluenzaと言います。かぜもインフルエンザもウイルス感染が原因ですが、病原体となるウイルスは両者では異なり、かぜの原因ウイルスはライノウイルス、コロナウイルス、アデノウイルスなどですが、インフルエンザはインフルエンザウイルスです。かぜに比べてインフルエンザは高熱を伴って急激に発症し、全身倦怠感、食欲不振などの「全身症状」が強く現れます。さらに、関節痛、筋肉痛、頭痛も現れます。また、インフルエンザは、肺炎や脳炎(インフルエンザ脳炎)などを合併して重症化することがあります。
 インフルエンザに感染すると、激しい炎症にさらされて、サイトカインという化学物質が吹き荒れ、嵐に巻き込まれたかのように、体のシステムが相当なダメージを被ります。興味ある話ですが、インフルエンザ感染と動脈硬化との関連が指摘されていて、2006年に米国心臓協会と米国心臓病学会は、冠動脈疾患やアテローム性動脈硬化の患者への二次予防策としてインフルエンザワクチン接種を推奨しています。さらに、インフルエンザ感染による炎症の嵐が、肥満、心臓疾患、脳卒中、がんなどに罹るリスクを高めるともされています。このような疾患は様々な炎症が原因であることが明かとなっていて、インフルエンザ感染がもたらす炎症が感染後に、肥満、動脈硬化、心臓疾患、脳卒中、がんなどの発症原因の一つになると考えられます。
 インフルエンザワクチンを接種すると、体の中に産生される抗インフルエンザウイルス抗体により、インフルエンザ感染を予防できます。また、罹ってもインフルエンザ感染による激しい炎症を起こさずにすみます。したがって、インフルエンザワクチン接種は、インフルエンザ感染により発症する可能性のある数多くの疾患に対して、生涯にわたっての一次予防策としてとても大切ではないかと思います。

2016年12月8日


参考文献
1)Rezaee-Zavareh MS, et al. Infectious and coronary artery disease. ARYA Atheroscler 2016; 12: 41-49.
2)Gurfinkel E and Mautner B. Secondary prevention of coronary artery disease. Flu vaccinations and new evidence of the role of infection in acute coronary syndromes. Rev Esp Cardiol 2002; 55: 1009-1012.
3)Lavallee P, et al. Association between influenza vaccination and reduced risk of brain infarction. Stroke 2002; 33: 513-518.
デイビッド・B・エイガス(野中香方子訳)(2013)「ジエンド・オブ・イルネス」(日経BP社)

21世紀は心の世紀

2016/11/8

 保健管理センター長の一言【21世紀は心の世紀】

 順天堂大学医学部特任教授の奥村 康先生が執筆なされた著書「「まじめ」は寿命を縮める「不良」長寿のすすめ」の中に「21世紀は心の世紀」という言葉があります。その中に「21世紀の医学界は? 身体に気をつけるだけでは無理だということが分かってきて「心の世紀」と言われています。・・・・笑う、怒る、信じるなどの心の動きが、どこまで病気を招いたり、治したりするのか。・・・・20世紀の終わりごろから、心の問題にも科学の光が当たり始め、西洋医学の弱い部分を補完していこうという考え方が広まってきました。」
 10月18日に発売された「ケトン体ががんを消す」(古川健司著)にこんなことが書かれています。大阪にある「患者主体の医療」を提唱・推薦する「e-クリニック」という医療団体が、がんを克服した人々に「何がその一番の要因だったかと思う」についてアンケートを行いました(複数回答ではなく、選択回答)。その結果、圧倒的な1位に「考え方」、続いて「食事」が迫っていて、「医者」は「運」よりも低いレベルだったようです。この結果について古川先生は「「治す主体」はあくまでも患者さんであり、いままでの生き方や考え方、食事を見直したことが、治癒への原動力になったことを雄弁に物語っています。なぜなら、心の在り方(考え方)が、人を行動へと駆り立て、食事療法の継続を可能にさせるからです。」とコメントされています。
 血液検査で白血球の各種類(好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球)の割合を百分率(%)で表す白血球分画という検査項目があります。ストレスなどで交感神経が緊張すると顆粒球(主に好中球)が増え、逆にリラックス過剰な状態では副交感神経優位となりリンパ球が増えてきます。わかりやすく言えば、ストレス過度の状態ではリンパ球が少なくなり、風邪などのウィルス感染、さらにがんなどに罹りやすくなります。逆にリラックスしすぎると、リンパ球が増えて、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、うつ病などに罹りやすくなります。(リンパ球の比率は35~40%が免疫力で病気を撃退できる安全圏です)。したがって、交感神経、副交感神経のバランスをうまくとることは大切で、やはり、日々の生活で適度な緊張と安らぎは重要であると納得できます。
 以上のようなことから、私は最近では、人間の疾病の発症、予防、回復、増悪に「気持ちの持ち方」も一つの重要な要因ではないかと思うようになりました。日々の忙しい仕事の合間の休日にゆっくり本屋で立ち読みをしたり、ゆめタウンやイオンで気になるワインやビールをチェックしたりすると心がリフレッシュします。先日は、欲しい鞄を東急ハンズで時間をかけて探し、気に入ったのを見つけたときはとても嬉しかったです。野球、サッカー、バスケットで応援しているチームが勝利すると元気になります。神社・仏閣へ参拝すると不思議と心地よくなります。そんなささいな喜び、祈りなどが人間の健康に大きく影響するのではないかとこの頃、つくづく感じるようになりました。

2016年11月8日

参考文献
1) 古川健司著(2016年)「ケトン体ががんを消す」(光文社新書)
2) 安保 徹著(2014年)「安保徹のやさしい解体新書 免疫学からわかる病気のしくみと謎」(実業之日本社)
3) 安保 徹著(2013年)「病気にならない人の免疫の新常識」(永岡書店)
4) 奥村 康著(2009年)「「まじめは寿命を縮める 「不良」長寿のすすめ」(宝島社新書)

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血糖値スパイク

2016/10/14

保健管理センター長のひとこと【血糖値スパイク】

 先日、NHKスペシャルで「“血糖値スパイク”が危ない~見えた!糖尿病・心筋梗塞の新対策~」という番組がありました。ご覧になられた方もおられると思います。この番組に対する私の見解を述べさせていただきます。
 食事により多量の糖質を摂取すると食後異常に血糖値が上昇するため、膵臓から多量のインスリンが分泌され一気に血糖値が低下して血糖値の乱高下が生じます。この現象を血糖値スパイク(グルコーススパイク)と言い、これが動脈硬化、糖尿病、認知症、がんなどの生活習慣病の原因になること、そして、グルコーススパイクの発生予防策などが紹介されていました。
 グルコーススパイクはなぜ生活習慣病を招くかということですが、NHKスペシャルではグルコーススパイクによる活性酸素発生が原因であるとされていました。もちろん、これは正しい説明ですが、さらに詳しく述べると多量のインスリン分泌自体により活性酸素発生が助長されると考えられます。人間が白米、品種改良された小麦製品(パン、パスタ、うどんなど)などの精製穀物を食さなかったころには、食後血糖値は異常に上昇することはありませんでした。そのため、食後のインスリン分泌も適度に分泌されていました。人類の歴史は精製穀物を摂取しなかった時代が長く続いたため、糖質を代謝することに関しては、精製穀物を摂取せず、肉を食べたり、油を燃やしてエネルギーにしていた時代に最適化されています。つまり、我々の遺伝子は精製穀物を摂取することに対して対応できるようにプログラミングされていないのです。人間が精製穀物を食べるようになった現代では、食後血糖値の異常高値に対してインスリン分泌機能が誤操作を来して、大量にインスリンが分泌されます。この大量インスリン分泌が活性酸素発生にさらに拍車をかけます。また、インスリン自体がある種の長寿遺伝子の発現を抑制することも生活習慣病発生に関与しています。したがって、グルコーススパイク発生を抑えることがとても重要であります。
 また、多量の糖質摂取によるインスリンの過剰分泌により余分な糖質が中性脂肪に変換され、脂肪細胞に過剰に蓄えられます。そして、内臓脂肪が多くなってきます。すると、脂肪細胞からTNF-α、PAI-1などの炎症性サイトカイン分泌が増加して、全身を巡るようになり、さらに動脈硬化、糖尿病、認知症、うつ病、がんなどが発症しやすくなります。
 したがって、すべての生活習慣病発生にはグルコーススパイク発生が大きな要因であると言っても過言ではないです。
 今回のNHKスペシャルは後半ではグルコーススパイクを発生させないための対策として、① 食べる順番、② 食事は抜かない、③ 食後に運動という3つの対策を紹介していました。食べる順番では、野菜、肉、魚などで最後にパンやご飯を食べるといいとしていました。しかし、食事の最後に精製穀物を食べるのは如何なものかと思われます。この方法では、すべての人にグルコーススパイク発生を抑制するのは無理です。また、食事を抜かないとう予防法も疑わしいです。私は朝食、夕食はほぼ毎日食べますが、仕事の都合上、昼食を食べる時間がないときがあります。そんなときは、無理に食べなくても忙しくて、空腹感を覚えませんし、すぐに夕食の時間になるので、あえて昼食を食べなくても十分仕事はできます。食べる順番、 食事は抜かないなどと言ったその場しのぎのようなやり方より、糖質さえ控えればグルコーススパイクは発生しにくくなるだけの話です。もちろん、食後の運動については否定しませんが、糖質を控えた上での運動が大切です。これから、寒くなりますので、寒いときに無理に運動して頭の血管が切れたら元も子もないです。運動はやりたいときに、晴れた日に心地よくできればそれで十分だと思います。
 NHKでグルコーススパイクが紹介されたことはとても良かったと思いますが、最後に「グルコーススパイク予防には糖質を控える、つまり精製穀物を控えたら、すべての生活習慣病はかなり予防できる」という本質に迫った簡単な結論で番組を締めて欲しかったです。

2016年10月14日

コレステロール神話

2016/9/15

 保健管理センター長のひとこと【コレステロール神話】

 「動物性の飽和脂肪は血中コレステロール値を上昇させ、コレステロールやほかの脂肪を動脈内にプラークとして堆積させる。」これは本当のことでしょうか?実際には、最近30年間で「低脂肪、低コレステロールの食事」によって血清コレステロール値を下げれば、心臓発作や死亡率を下げることを明確に示す研究は発表されていません。
  最近では以下のような報告が認められています。「高コレステロールの集団」と「低コレステロールの集団」の間で冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)、がん、感染症による死亡リスクに差はない。「高コレステロールの集団」は「低コレステロールの集団」に比べて死亡リスクが48%低い 。高コレステロールは延命のカギである。総コレステロール値が低い人たちの心臓発作や心疾患および他の原因での死亡率は、総コレステロール値が高い人たちと同程度であった。コレステロール値と心疾患罹患率との相関は見いだせなかった。フラミンガム心臓研究に携わる研究者、ジョージ・マン博士は、「「脂肪やコレステロールを大量に摂取することで心疾患が引き起こされる。」という仮説が間違っていることは何度も示されている。」と発言しています。さらに、高コレステロールは認知症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などの神経性変性疾患においてもfavor effectをもたらすと報告されています。実際、コレステロールは細胞膜の構築や維持に不可欠であり、ステロイドホルモン・胆汁酸・ビタミンDの原料となり、血管の内側に膜をつくり、血流による損傷から血管を保護し、脳の神経細胞のそのものの維持を行い、脳が適切にコミュニケーションを取り、機能するための進行役など重要な役割を持っています。
 話を戻しますが、現在では「コレステロールはアテローム性動脈硬化にほとんど関係がない。」ことが明白となって、「コレステロールは増え過ぎると動脈硬化を進行させて、心筋梗塞などに結びつく。」(コレステロール悪玉説)というコレステロール神話は今や完全に崩壊しています。
 では、何がアテローム性動脈硬化の原因でしょうか?それはリポタンパク粒子の大きさの問題です。コレステロールやトリグリセライド(中性脂肪)などの脂質は、そのままの状態では血液に溶け込むことができません。そのため、脂質は、水と相性の良いタンパク質などの成分に包まれるようにしてできた「リポタンパク」という粒子となって、血液中に溶け込んでいます。リポタンパクのなかに、LDL、HDLなどの粒子があり、LDLは肝臓から全身へコレステロールを運び、HDLは余分なコレステロールを回収します。アテローム性動脈硬化の原因となるのはLDLの中でも直径の小さな小粒子LDLです。この小粒子LDLは酸化・糖化されやすく、血管の壁の中に入り込んで異物と見なされてマクロファージという免疫系の細胞に取り込まれていき、血管内皮細胞内でコレステロールを蓄積させ動脈硬化を促進します。
 糖質の過剰摂取によりインスリンが過剰に分泌され、中性脂肪がたくさん作られます。そして、中性脂肪は小粒子LDLを生みだし、これがアテローム性動脈硬化の原因となるのです。心臓病、脳血管障害は単なる高コレステロールの問題ではなく、原因は、酸化、糖化、炎症、小粒子LDL、つまり糖質の過剰摂取が引き金となって起こります。高雄病院理事長・江部康二先生によれば、「中性脂肪が多くて、HDLコレステロールが少ない人は小粒子LDLがたくさんある可能性が高いので要注意です。HDLコレステロールが多くて、中性脂肪が少ない人は小粒子コレステロールと酸化LDLコレステロールは少ないので安全です。糖質制限食実施中の人は、HDLコレステロールが多くて、中性脂肪が少ないです。」とのことです。したがって、糖質を控えて、インスリンに負担をかけない食生活が心血管系疾患予防のカギです。
 今年度の保健管理センター健康教育講演は「コレステロールなどの正しい油摂取の重要性」について行う予定です。よろしくお願いいたします。
                                     2016年9月15日


参考文献
1) 新井圭輔著(2016年)「糖尿病に勝ちたければ、インスリンに頼るのをやめなさい」(幻冬舎)
2) アイザック・H・ジョーンズ著(白澤卓二監修)(2016年)「世界のエグゼクティブを変えた超一流の食事術」(サンマーク出版)
3) デイビッド・パールマター、クリスティン・ロバーグ(白澤卓二訳)(2015年)「「いつものパン」があなたを殺す」(三笠書房)
4) 白澤卓二著(2015年)「あなたを生かす油ダメにする油」(KADOKAWA)
5) ウィリアム・デイビス(白澤卓二訳)(2013年)「小麦は食べるな!」(日本文芸社)
6) ドクター江部の糖尿病徒然日記 http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-category-11.html

シニアケトジェニックダイエットアドバイザー

2016/8/2

保健管理センター長の一言 【シニアケトジェニックダイエットアドバイザー 】

 日本ファンクショナルダイエット協会(JFDA)認定のシニアケトジェニックダイエットアドバイザー資格を取得しました。昨年の7月にJFDA認定のケトジェニックダイエットアドバイザーとなりました。その後9月、11月、今年1月、3月、5月にシニアケトジェニックアドバイザー養成講座(1)「ケトン体の生化学」、2)「代謝、糖尿病、肥満治療としてのケトジェニックダイエット」、3)「認知症予防、認知機能改善のためのケトジェニックダイエット」、4)「小児栄養とケトジェニックダイエット」、5)「ガン予防とケトジェニックダイエット」)を受講して、7月10日にシニアケトジェニックダイエットアドバイザー修了試験を受験しました。終了試験に合格したことは重要なことですが、それよりもそれぞれの講義内容がとても新鮮で毎回、興味深く拝聴できましたことがとても楽しかったです。どの講義も私が30年以上前、医学部の学生であったころには想像できなかった内容でした。各講義毎に内容をまとめて作成したサブノートはとても貴重で、今後、学生講義、日常診療などを行う際に参考になると思っています。
 私は2011年6月22日(夏至)に腰部脊柱管狭窄症のため手術をしてもらいました。手術時間は8時間を超えました。術前には痛みのため30mくらい歩けるのがやっとでした。術後、リハビリが一通り終了したとき、主治医の先生から、重いものを急に持ち上げたりしないことなど腰に負担がかからないように気をつけること以外は特に注意することはないが、一番大事なことは「体重を増やさないこと。」と言われました。
 その後、体重を増やさないにはどうしたらいいかと模索して、辿り着いたのが「ケトジェニックダイエット」でした。私のように腰に不安を抱える者にとって、このダイエット法は運動しなくても痩身できるのでとてもありがたいです。さらに、摂取カロリー制限はないということ(ただし無制限ではない)も特徴で続けやすいです。現在、体重を維持できているのはケトジェニックライフを継続しているお陰だと思います。また、医療従事者として自分自身が健康であるにはどのようにしたらよいかと、いつも思考するのは大切であると思っています。
 私はケトジェニックダイエットを現在健康な方、興味のない方などに勧める気はないです。しかし、日本でも今後、糖尿病、認知症、心血管疾患、うつ病、ガンなどの疾患は増加すると予想されています。そんな中、健康長寿でありたいと思われている方には、ケトジェニックダイエットは一つのオプションとなり得ると思います。興味のある方はご連絡下さい。少しでもお役に立てれば幸いです。私自身はシニアケトジェニックダイエットアドバイザー取得は目標達成ではなく、ケトジェニックダイエットという健康法をさらに深く習得する過程であると捉えて、これからも最新の知見など多くを学んでゆきたいと思っています。
 先日、鳥取県日野町の知り合いからいただいた採れたてのキューリとトマト、夏らしいケトジェニックな品(レッドチキンカレー、ゴーヤチャンプル)を提示します。

2016年8月2日

kyuuri tomato

kare      go-ya

                                                                                             2016年8月2日